「私とブラームス」というタイトルでエッセイを書くことになった。
私にエッセイを頼むくらいだから、このプログラムの編集者は、私が相当ブラームスに対して思い入れを持っていると考えているに違いない。
あるいは書いてくれる人が私くらいしかいなかったのかもしれない。
とにかく、ブラームスは割と好きな作曲家である。どのくらい好きかというと、自分のパソコンにbrahmsと名づけているくらいである。
なぜベートーヴェンにしないのかというと、つづりが難しいからである。たしか、beetoubenとつづったと記憶しているが、あまり自信がない。
これがロシアの作曲家となると最悪である。チャイコフスキーやショスタコービッチなど、もはや覚えることは不可能である(正確なつづりを知っている方はアンケートの余白にでもご記入ください)。当の本人たちも自分の名前を覚えられなかったかもしれない。つくづく自分がロシア人でなくて良かったと思っている。ちなみに会社でメインで使っているパソコンにはbachと名づけていて、とても気に入っている。バッハはかなり好きな作曲家だ。以前、schumannと命名していたパソコンもあったが、なぜか数年前に壊れてしまった。
ところで、普段クラシックをあまり聴かない一般の人(本日ご来場下さったお客様が異常な人だという意味ではございません)にとって、ブラームスという作曲家は我々が思っているよりもなじみが薄いらしい。すなわち、名前を聞いたことはあるけれども実際に曲を聞いたことのある人は少ないようである。
私の友達も同様で、ブラームスの演奏会に誘っても「運命とか新世界なら行くよ」などと、大抵はつれない返事がかえってくる。よしんば演奏会に来てもらって感想を聞いても、おおよそ「良かった」か「眠かった」の2通りの回答しか得られない。ひどいのになると、「おまえが目立ってたよ」とか「今度はイングウェイ・マルムスティーンとジョイントやってくれ」とかめちゃくちゃなことを言い出す始末である。とはいえ、吹奏楽少年だった私も、かつてはレスピーギの「ローマの祭」とかホルストの「惑星」のような血沸き肉踊る系の曲がもっぱらで、ブラームスなんて渋すぎて聴いていられんと思っていたから、あまり人のことは言えないかもしれない。それが今では、ブラームス・チクルスなんてやっているオケに在籍しているのだから、世の中わからないものである。
小さい頃は苦手だった食べ物や飲み物が、成長していくことで、次第にその味の良さや奥深さがわかるということがある。音楽もこれと同じようなものかもしれない。小さい頃は退屈で眠たいとしか思わなかったブラームスの曲も、恋愛や離別、嫉妬、などの経験を重ねることで、自分の人生とブラームスの音楽とが同調し、次第にブラームスの良さわかるようになるのだろう。私も入学や卒業、就職といった重大な人生経験を積み重ね、今ではブラームスのCDもよく聴くようになった。特に布団の中で横になって聴くとぐっすり眠ることができる。コーラとかドクターペッパばかり飲んでいた少年が、渋い番茶や苦いコーヒーもすするようなおっさんになったというところか。でも、いちばん好きなのはビールです。