「ピアノ四重奏曲第1番 ト短調」 (Vn. T.S)

好きな曲,思い入れのある曲は多数ありますが,好きな作曲家といえば,昔から断然モーツァルトとブラームスです。 ブラームスとの出会いは,幼少の頃,ハンガリー舞曲集をLPで聴き,家族で連弾したことです。 今でも,曲の中でLPが針飛びする場所,楽譜の配置まで思い出されるほど記憶が鮮明です。 私にとって,ハンガリー舞曲が唯一のブラームスでした。 今思えば,それはブラームスのほんの一面でしかなかったのですが。
こういう私を,ブラームスの世界へ一気に押し出したのが,大学1年の時にアマチュアの演奏で聴いた「ピアノ四重奏曲第1番 ト短調」です。ブラームスへの第1歩のみならず,何も知らなかった私にとって,室内楽の海への第1歩でもあったのです。これをきっかけに,ブラームスの室 内楽曲のCDを買いあさったものでしたが,一度で良いから,この曲を自ら演奏したいと思い続けていました。
その機会は,意外と早くきたのでした。 この曲に出会ってから1年後,ある合宿で,盲目のアマチュアピアニストと,この曲の4楽章を演奏する場を頂いたのです。 彼は,怒涛のごとく弾き始めました。目が見えないというハンディを全く感じさせず。 ハンディどころか,通常のアマチュアより上手で,完璧な演奏でした。 私自身は,引きずられるように演奏し,わけのわからないうちに終わってしまいました。 夢の曲のわりに,自分の演奏は御粗末でしたが,いろいろな意味で感動と衝撃の瞬間でした。
私は大学生になるまで,楽器を練習することの苦痛をあまり感じませんでしたが,同時に,特に楽しいわけではありませんでした。この曲は,自分に別の音楽人生のきっかけをつくってくれた曲,演奏することの喜びを与えてくれた曲です。 この曲に出会っていなかったら,今こうして,ブルーメンフィルハーモニーで楽器を弾いていることもなかったかもしれません。